チップとお賽銭は似ている。(向田邦子)
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またも前回のつづき。
結局、キット製作は配線でギブアップ。父に応援を頼んだ。こちらは関連しそうなマニュアルをさがしだして翻訳したり、足りないパーツを調達したり、キャビネットの図面をさがして素材や厚みをしらべたりしただけである。つくづく文官である。他人任せである。
見かたをかえると、真空管アンプ製作は設計から部品調達、実装という異なる要素を併せもっているので、奥ぶかい趣味といえるのかもしれない。さらにオーディオアンプだと耳派と測定派にわかれるそうなのだが、ギターアンプだと奏者も兼ねてくるから、ますます遊び甲斐があるというか、いまのところほとんど手に負えていない。
それにしても、父の専門は流体力学だったはずなのに、工学畑の人にとってはこういうのは朝飯前なのか知らん。曰く「薪ストーブの火の点けかたにはベルヌーイの定理が利いている」という。知らんよ。
考えてみると、モノづくりの甲斐性もなく、チェーンソーも扱えず、炭焼きもできず、鉈の扱いもうまくなく、なんなら膂力もそう変わらんしで、いいところがちょっと見あたらない。書類作成は筆者のほうが100倍速いが、いっぽうで図面を引くことは私にはぜんぜんできない。
かろうじてマシなのは言語関係と検索技術くらい。あとは単純な記憶力とか処理速度とかその程度。おもわず人類は進歩しないのではないかという錯覚に囚われるが、無論そんなはずはなく、自分がへなちょこなだけである。
「仕上がりがこれで申し訳ない」としかいいようがない。大胆な気弱さである。以上、報告おわり。