オルオル・・・ハワイ語で、たのしい、気さくで気持がいい、の意。
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『Gabby』(Panini Records, 1991年)
ジャンク屋で見つけたデジタル・リマスター盤。オリジナルは1972年リリース。ギャビー・パヒヌイ51歳のときの作品で、彼は59歳で亡くなっているそうなので、晩年といっていいかとおもう。巷では「ブラウン・アルバム」と呼ばれているようだ。
サニー・チリングワースもそうだけれど、このひともギタリストというよりはボーカルギターという印象。音源をもっと聞いてみないとちゃんとしたことはいえないが、とにかくボーカルがナイス。
パヒヌイ・バンドをバックに、12弦ギターでストロークを主軸に弾き語っている。シリル・パヒヌイを聞いてからだと、かなりワイルドに聞こえる。ダンシングキャットレコードの一連のスラックキー作品とはちがった趣である。
レコードからの再収録もはいっているせいか、多少ラフな印象もうける。もっとも、こちらもオンボロラジカセで聞いているので、条件はひかえめにいって相当わるい。
とくに1曲の『Hilawe-1947/Luau Hula』は、ギャビー26歳の時の初録音だそうで、オリジナル78回転から収録している。メドレーになっていて、後半からいきなり音圧が上がる。1曲めの後半から1972年のレコーディングがはじまっているということなのか、よくわからないが、変則的な仕様なのはたしか。
スラックキーの教則本の付録音源を聴いていても感じるのだけれど、あまり細部にこだわらないというか、おおらかである。背後にノイズがまじっても平気だし、ミスタッチもそのまま、加工や編集をほとんどしていない。
ライブを聞いてナンボで、いつでもどこでも生演奏をしているから、録音物にこだわりがないのかもしれないとおもわされる。いまはどうかわからないが、70年代のこの時点で、彼らがレコーディングアーティストから遠い地点にいたのはたしかだろう。
演奏のノリは、ハワイ音楽のいつもの「寄せては返す波」というよりは、明確なアフタービート、タメるリズムである。もっとも、スローダウンはしてもけっしてハシらないあたりは、レイドバックというよりはハワイフィールかもしれない。
ビートルズやジョージ・ハリスンのソロ作にはいっていそうなパッセージがときおりでてくる。レトロポップというのではないけれど、伝統的な調子のなかに、ポップなコード進行やクリシェがはいってくる。
スラックキーを聞きだしてから、こういう作風にあたったのは、じつははじめてにちかい。ケオラ・ビーマーの1978年の作品『Honolulu City Lights』からは西海岸のサウンドを感じたけれど、本作にはビートリーな風が吹いている。
総じて、ポップで陽気で懐のふかい演奏であるといえるおもう。パーリーなわけではないけれど、どこか浮き立つようなところがある。
カウントからはじまる曲があり、フェイドアウトする曲があり、モダンな曲があり、斬新な曲もあり、どれもわりと感覚的に編曲しているようで、全編にアットホームでプライベートな香りがただよう。そういいながら、ビートルズの『サージェント・ペパー』のように、冒頭とエンディングを上記の『Hilawe-42』と『Hilawe-72』でリプライズしていて、コンセプトをもったアルバムとしてパッケージングされている。このあたりは1972年の同時代感覚なのかもわからない。
ライナーを読むと、ギャビーの息子たちと旧知のミュージシャンをあつめて録音したらしい。ジャケット裏の写真を見ても、中庭のようなスペースに楽器を抱えたメンバーがあつまって、和気藹々とした様子が伝わってくる。これがラナイなのだろうか。ここでそのまま録ったのかも、とおもわせるような親密な雰囲気がある。
あるいは、そこはかとない70年代アメリカンポップスの香りは、息子たちからもたらされているのかもしれない。もうすこし作品を追いかけてみないと、はっきりしたことはいえそうにない。
なお、パヒヌイ家関連でいうと『The Pahimui Bros.』(1992)という作品が気になっている。入手できるかは調査中。
ギャビーにかぎらず、パヒヌイ家の音楽家たちの作品も追ってみたい。つくづくキリがない。以上、報告おわり。