「どうして巡礼なんてするんだ? それを回していればいいだろうに」私は男のもっているマニ車を指して訊ねた。
すると男はいかにもつまらぬ質問をするやつだというように、ぶっきらぼうにこういった。「功徳があるからさ」
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このところ、カントリーブルースつながりというか、フォークつながりというか、カウボーイたちの来し方行く末をさがしている。とりあえず50年代のカントリーを図書館で借りて聞いているのだが、おもいのほかスライドギターもはいっている。たぶんラップスティールで、なんならハワイ音楽の親戚のようにも聞こえる。
ちょいちょい3拍子の曲がでてくるけれど、ブルースやロックには6/8や12/8はあっても3拍子はあまりない気がする。ジミヘンの『Manic Depression』くらいしかおもいつかない。
時系列は逆になるが、ボーカルはジョニー・キャッシュのように聞こえてしまう。メロディラインと声域が似ているせいだろうか。ハンク・ウィリアムズなどはヨーデルをつかうし、歌いかたもアクがつよいので一聴してそれとわかるが、そうでなければわりと共通点が耳につく。すくなくとも、カントリーブルースのように、スタイルがそもそも雑多で、うたごえも各自のくせがつよく、うたいかたもてんでバラバラというようなことはない。
いまのところブルーノートはでてきていない。そもそも音程の揺らしがあまりないというか、朗々と、はっきりとうたわれている印象である。クルーナーとまではいわないが、中域の男性ボーカルへ女性ボーカルがハーモニーをつけるか、それをさかさにしたスタイルが定番らしい。ちょこちょこ聞いた限りでは、ハンク・ウィリアムスなどは、クラシックとされてはいるものの、ボーカルスタイルとしてはヒネりがきいているというか、個性的な部類なのかもわからない。
カントリーとフォークのひとのうたいかたが似ているいっぽうで、フォークブルースのひとたちは、それとはちがったふうにうたうことがおおい。むろん、ひとによるのだが、どうしても音程をゆらしにかかるし、発音も不明瞭になりがちである。だから歌詞はききとりづらい。
そもそもブルースは即興でうたっているものもおおいため、くりかえしになりがちだし、メッセージよりはサウンドや雰囲気を伝える感じになりがちである。フォークやカントリーのほうは、歌詞が教訓やプロテストを含みがちなので、どれだけ崩してもちゃんとそれが伝わるようにうたう。このあたりの消息は、60年代にディランがエレキ化したとき、楽屋にいたピート・シーガーが、「うたが聞こえない」とおこって斧でケーブルを切ろうとした、というエピソードにもあらわれているようにおもう。
楽屋になんで斧があったかはさておき、ブルースの歌詞についてはまたこんど。きりがない。