ドバラダ飛空船〜ブルースからハワイまで〜

ギターをひいたり真空管アンプをつないだり

囚人労働歌

 『Prison Songs Vol. 1:  Murderous Home』(Rounder Records、1997年)

 

 アラン・ロマックス・コレクションの1枚。本作はロマックス親子がレコーディングした最初期のアフリンアメリカンミュージックである。

 

 アラン・ロマックスと父親のジョン・ロマックスが、アメリカ南部の刑務所で黒人音楽を録音しだしたのは1903年のことだった。当時ふたりはアフリカン・アメリカンの古い音楽が外界から隔絶された囚人農場にのこされているのではないかという仮説を立てていた。

 

 レコーディングをしていくと、奴隷制時代にさかのぼれそうな音楽も聞かれたが、それ以上にオリジナルなうた、新しいジャンルととらえたほうがいいようなサウンドみつかった。いずれも過酷な労働環境を歌ったものである。

 

 実際、囚人刑務所というのは奴隷制のレプリカのようなものだった。わが国にも「平家にあらねば人にあらず」というのがあったが、そのレベルではない。とにかく難癖をつけられて、刑務所に放りこまれる。うろちょろしている、怠けている、不法侵入、白人に対して道を譲らない、など、など。

 

 彼らは文字通り死ぬまで働かされた。丸太を切ったり鉱山にもぐったり線路を敷設したりした。3Kの重労働であり、衣食住はまったく考慮されなかった。ただのムチャクチャである。

 

 そのせい、といっていいのかどうかわからないが、サウンドはどこかスピリチュアルめいている。ブラインド・ウィリー・ジョンソンのようにも、サン・ハウスのようにもきこえる。

 

 音程のこまかい揺らし、ブルーノート、語りとメロディの往復、ファルセットと地声の往復がきかれる。明白なコールアンドレスポンス形式をとり、アフタービートのことがおおいが、1拍目を強調するパターンもある。

 

 ビートをだすのは手拍子だったり、鎚だったり、鎖の音だったりする。いずれもタイミングがジャストからうしろにむけてずれるので、パララッ、パララッというきこえかたをする。各人のタイムのちがいだろうが、タメのリズムなのはたしか。

 

 じっと耳をすませていると、どこか遠くに響いているように聞こえるが、どこかはわからない、意外にちかいかもしれない、そんな音。音楽という字面が似合わないのに、これ以上ないほど音楽しているような音楽。

 

 以上、報告おわり。