前回のつづき。
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そのあとはどうなるか。オープンチューニングのままテクニックをふやすか、あるいはさらにチューニングをいじるかである。前者についてはスライドやハンマリングや人工ハーモニクスがみつかるだろうし、後者についてはドロップ系のオープンGの変形がふえていくはずだ。しからば、ブルースでつかわれるようなオープンDやAやEは、どういう順序でうまれるのだろうか。
レギュラーチューニングからG以外のメジャーコードを手間なくつくろうとおもうと、オープンEが3弦を半音あげるだけでコードができるのでよさそうである。しかし、ぜんたいをEにするには、のこりの弦の音も高くしないといけないので、すぐにはしない気がする。
オープンAは、和声的な距離がオープンEよりも遠いので、パッとおもいつきそうにない。そしてこれも弦をよけいに張らないといけない。
Dは距離的にはAとどっこいどっこいだが、ルート音が高くなるぶん、いきなりおもいつくひとはなかなかいないのではなかろうか。Gをつくろうとして、6弦をさげたとき、4~6弦を鳴らして、「おや」とおもい、そこから3弦をちょっと下げたら「ユリイカ!」という流れで見つかった可能性はありそうにおもう。
あるいは、当時流行していたラグタイムをギターで演奏しようとして、ベースラインをすこしでも下にひろげるために、レギュラーチューニングから6弦をDに落としたかもしれない。上述のとおりそこからオープンDまでは半歩の距離である。
どうやらDもAもEもすぐにはつくれそうにない。ブルースマンのことだから、自分の声域にあわせて適当にかえていったのはまちがいないだろう。そのとき、ものぐさなブルースマンは弦交換もいやだったろうから、やはりチューニングはさげる方向でかんがえたはずだ。
だからオープンGにしてうたってみて、低すぎたら1音上げてオープンAにした可能性もすてきれない。ただ、これだと手間はかかるし、調弦もむずかしいとおもう。あったかどうかわからないが、カポをつけるほうがだんぜん早い。
または、最初の説にもどるが、オープンコードをつくろうとして、というよりは、高音のメロディ部分をひくのをかんたんにしようとして、レギュラーチューニングから3弦を半音上げてオープンEの変型ができ、そこからオープンEに至ったということもかんがえられる。それでは高すぎる、というのでそこから1音下げてオープンDが生まれた可能性もあるが、これもさっきのオープンAとおなじで、調弦がむずかしそうである。
酒と煙草でしゃがれたオッサンの低い声にはオープンEよりは調子のひくいDのほうがあいそうな気もする。オープンGでうたっていてDコードにぶつかり、開放弦でこれを鳴らしてしまおうとかんがえたのかもわからない。
結論、レギュラーチューニングからいじる手間と、弦のきれるリスクも考慮すると、ありそうな順に
オープンG>>>オープンD≓オープンE>>オープンA
だろうか。知らんけど。
ともあれ、このようにみてくると、変則チューニングの使用人口は、はっきりとオープンGがトップにくるのではないかとおもえてくる。いまでこそギターのチューニングは百花繚乱だが、時代をさかのぼるほど、オープンGのレパートリーの割合がふえていくのではないだろうか。世界のギターミュージックをさかのぼっていったら、そうなるのではあるまいか。
書いていくうちにレギュラーチューニングの由来も気になってきたが、きりがないのでまた今度にしよう。いったん報告おわり。