このところハワイの音楽ばかり聴いていたら、変則チューニングが大量にでてきて、そのなかでもオープンG―タロ・パッチ―とその変形がよくつかわれている。ブルースにおいてもオープンGは代表選手である。どうしてか、というはなし。
レギュラーチューニングありきでかんがえると、オープンチューニングの発生の順序というのは、たぶん世界じゅうどこでもおなじになる。すなわち、レギュラーのチューニングから音をさげて、オープンコードをつくるのである。
楽器をひいたことのないひとが、ある日突然、なんの説明もなくレギュラーチューニングされたギターをプレゼントされたらどうするか。まず開放弦をジャラーンと鳴らしてみるだろう。そのサウンドはEm7に11thを足したテンションコードである。おそらく、はじめて楽器を鳴らすひとには、素敵にはきこえないはずだ。
それで「とりあえずもうちょっと響きよくならんか」とおもったとき、2~4弦のカタマリがGになっていることに気づくはずだ。1~3弦もEmになっているが、たいていのひとはメジャーコードの響きにひかれるだろう。
和声的に白紙状態のひとが、メジャーとマイナーのどちらにひかれるかというのは、よくよくかんがえるとむずかしい問題である。だれもがメジャーを明るくマイナーを暗く感じるのかという問いも、これにくっついているような気がする。
しかしながら、実際問題、ひとむかしまえのワールドミュージックをあさって、つかわれているギターの変則チューニングをしらべたら、多くはオープンGになっているのではないかとおもう。オープンEmチューニングというのはあまりきいたことがない。
これは、上述の問いに「コードをきいたことのないひとでも、たいていはメジャーコードを明るく感じる」と仮定すると、いくらか真実味を帯びてくるようにおもう。かなしい気持のときに知らない楽器を触ろうとするひとはあまりいないからだ。
ひとは大なり小なりそのときの自分のフィーリングを音にしたいとおもって楽器を手にするのではなかろうか。そうでなくても、未知の楽器をいじるときは、それを解明しようという好奇心をともなうはずで、それはサスペンス的な興味ともちがうから、マイナーやディミニッシュの気分とは遠い気がする。全部が全部そうじゃないだろうけれど、概してそうだとおもう。
話をもどすと、正確にはそのときはGとかEmとかはわからないわけだが、2~4弦を鳴らして「ウン、ここだけならいい感じ」とおもうわけだ。それで、ほかの弦もこれと合わせてしまおうとかんがえる。ペグに触れる。弦をゆるめる。
そう、このとき、弦を張るのではなくゆるめるだろう。楽器に負担がかかりそうだし、そこまでかんがえなくても、きつく張りすぎると弦がきれそうなのは容易に推測できる。弦の張りかたも知らなかったら、よけい慎重になるはずである。
それで、ためしに6弦をさげていくと、4弦のオクターブ下になったところで「オッ」とおもい、つづいて5弦をさげると、3弦のオクターブ下で「おっ」とおもい、さらに1弦をさげて4弦のオクターブ上になったとき「オウイエ」となったのではあるまいか。じっさいの順番はちがったかもしれないが。
このように、和音の知識をもたないひとが、レギュラーチューニングのギターから安定したサウンドをもとめていったら、オープンGになるのである。(ほんとうかね?)