ドバラダ飛空船〜ブルースからハワイまで〜

ギターをひいたり真空管アンプをつないだり

音楽を聴こう35 〜Far Cry〜

 Far Cry『The More Things Change…』(1980年)

 

 AORに共通する音像を言語化しようと思っては「まあ聞けばわかるしいいか」と放置して、ゆうに20年以上たっている。せっかくなのでこの機会にこころみよう。

 

 まず、ボーカルはワイルドでない。コーラスもきれいめ。そもそもサウンド自体きれいめ。音数の多すぎないベース。さりげないテクニック。ある種のせつなさも不可欠で、これを演出するコード進行とテンションがあるように感じられる。

 

 架空の約束、暗黙の了解、ほどよい塩梅を余裕綽々のていで表現する音楽。ムチャクチャないいかたをすると、リビドーよりはナルシシズムということばが似合いそうなひとたちがしていそうな音楽。

 

 とりようによってはかなりキザなサウンドである。むこうの高級ムード歌謡だと思えばいいんじゃないだろうか。ちがうか?

 

 こういうのを聞いているとスティーリー・ダンやテレンス・ボイランを聴き直したくなってくる。スティーリー・ダンといえば高校一年のとき図書館で偶然『Aja』を借りて衝撃をうけた記憶がある。とにかく洒落ていてうまくてキレイなのにおどろいた。

 

 当時は「オトナだな~」と思っただけで、それ以上しらべる気にならなかった。いまのようにネットもないので手だてもあまりなかったし、こちらはクラプトンから洋楽に入ったばかりでコード進行やテンションもわからないし、ギターソロもテクニカルで音づかいもちがうし、何よりソロだけコピーしても仕方ないように聞こえた。

 

 ブルースロックだと、ギターソロだけでも追いかければなんとなくフンイキは味わえるし、そのままダラダラ弾きつづけることもできかねないが、AORはそうもいかんというか。要はむずかしすぎたのだ。

 

 水戸市の県立図書館だったか市立図書館だったか、当時はなんでもかんでも手あたりしだいに借りては聞いていた。ゆるい坂の上にあって、ちかくに水路があり、銀杏の木が植わっていたのはおぼえている。いまもあるのか知らん。