ドバラダ飛空船〜ブルースからハワイまで〜

ギターをひいたり真空管アンプをつないだり

Stone Free

『Unreleased & Rare Masters』(ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、2000年)

 

 ジミヘンの未発表音源はほんとうに山のようにでていて、玉石混交のなかにも整理整頓がすすんで、いまにつながっているようである。生前のアルバムはたしか4枚だったとおもう。

 

 高校生のころ彼の伝記を読んだことがあるが、スタジオでテープを回しっぱなしだったらしいので、のこされた膨大なテープからつかえそうな部分を切り貼りしていったら、なん枚でも音源ができてしまうのだろう。活動期間のみじかかったジミですらこれだから、スティーヴィー・ワンダーなどはどうなってしまうかわからない。本人がお蔵入りにしたテープだけで四半世紀ぶんくらいあるんじゃなかろうか。

 

 さておき、ジミである。中3のおわりにエリック・クラプトンからギターにはいって、やはりというかつぎは3大ギタリストだということになり、ちょうどそのころBSでレッド・ツェッペリンのライブやジミヘンのワイト島フェスティバルの映像をながしていたので、VHSに録ってひたすら観ていた。

 

 ツェッペリンはなんとなく様式美なところが肌にあわなかったが、その点ジミヘンは何をやっているのかぜんぜんわからんし、あの劣悪なコンディションなら当然だが演奏も散漫で―失礼!―、むしろパンクとしてきいていた節がある。未発表音源やブートレッグの類もすでに大量にあり、珍しいもの好きだったこともあって、いろいろとさがした記憶がある。

 

 当時はレディオヘッドの『OK Computer』をきいたりニルヴァーナの『Smells Like Teen Spirit』をきいたり、ミッション・インポッシブルからの流れでリンプ・ビズキットが流行ったりと、メインストリームもオルタナ〜ミクスチャーが主流で、とかく雑多なものをきいていた。これと同時にウェス・モンゴメリーセロニアス・モンクサンタナスティーリー・ダンをきいていたのだから、とりとめはないといえばない。

 

 それで高校のころ、本作がいつもの「決定盤」という触れこみでリリースされ、小遣いをはたいて購入して現在にいたる。じっさい、実家にずっと置きっぱなしにしていたので、きくのは10数年ぶりである。若干日やけしているが、中身は無事だった。ブックレットがどこかにいってしまったが、さがせばでてくるだろう、きっと。

 

 結論、買って損のない盤だったとおもう。巷にでまわっている盤に比して圧倒的にききやすい。なんならオリジナルアルバムよりもききやすいんじゃないかとおもうくらい。

 

 一定水準以上のテイクのみをえらんで、無理な編集をせず、丁寧にミックスしていることが伝わってくる。むかしはそういうのがまったくわからなくて、轟音のなかでジミがとりとめもなくギターを弾いて歌っているだけだとおもっていた。

 

 いまきくと3人でこの音圧と厚みをだしているのだからすごい。 そしてムチャクチャしているようでジミのギター・プレイが丁寧。丁寧にメチャクチャをやっている。しかも歌いながら。化けものだyo!

 

 ジミはデビューまえにリトル・リチャードのバックを務めるなどした経験もあることから、ノリは完全にR&B~ブルースで、オリジナル曲もブルースを下敷きにしているとおもってまちがいはない。そこにフックを足してSE的なサウンドとノイズをまじえるとジミめいてはくるものの、肝心のフックのでどころがよくわからないまま、いつの間にかいつもノック・アウトされている。

 

 正統派ブルースギターの流れを汲んではいるのだが、ファズやオクタ―バーやワウといったギミック、フィードバックや激しいアーミング、アクロバティックな弾きかたなどでは説明のつかないジミ節があり、それが録音の雑さやコンディションのわるさでかくされて見えづらくなっている。そのことがジミをとっつきづらくし、いっぽうではミスティフィケイトしているように私にはおもわれる。

 

 見方をかえると、生成過程がそのまま作品になっているひとであるともいえる。『Lover Man』などはその好例である。

 

 高校3年のころ、Disc 4の最後の『Slow Blues』をコピーしようとしてアッサリ挫折したおぼえがある。ブロックポジションではないというか、運指も音づかいもイマイチよくわからんのよね、このひと。それがまた恰好いいから始末がわるい。

 

 かつてはDisc 2を好んできいていたが、いまきくとDisc 1もいい。あまりにもリフがつよすぎるものはおもくて敬遠していたが、いまはきけるようになっている。

 

 というか、4枚が4枚ともそれぞれの魅力をもって、甲乙をつけがたい。枚数の多い盤にありがちな後半の疲れも感じないし、制作陣の一流の仕事に頭を垂れるのみである。

 

 ジミはさいごまで自分のボーカルには満足していなかったそうで、それを示すエピソードもたくさんのこっている。むかしは歌もギターもつかみどころがないというか、そんなふうにおもっていたが、それもいまはぜんぜんきける。こちらが成長して準備ができたということだろう。

 

 ジミよりはるかに年上になって、彼の音楽を以前よりたのしめるようになっている。つくづくすごいひとだとおもう。

 

 彼があと5年でも10年でも生きていたら、どんな音楽をつくっていただろう。ひょっとしたらギル・スコット・ヘロンのような路線を開拓していたかもしれない。あるいはジャジィなラップに暴力的なブルースギターをのせて、ポリリズムのなかから放ったりしていたかもわからない。興味はつきない。

 

 以上、報告おわり。