ある名手はいった。「無音を弾きこなすものが、音楽を制する」と。
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『カ・レオ・オ・ロコ』(ケオラ・ビーマー、2002年)
前回、You Tubeで観たケオラ・ビーマーのCDが図書館にあったので借りてきた。
本作は彼がダンシング・キャット・レコーズで録音した5作めのCDである。ライナーによれば、デビュー作の『Hawaiian Slack Key Guitar in the Real Old Style (1972)』や『Honolulu City Lights (1978)』などが有名らしい。
このひともナイロン弦つかいで、コタニさんを華やかに技巧的に美麗にしたようなスタイルである。じっさい、コタニさんのCDの解説文のなかに「ケオラ・ビーマーの演奏に衝撃をうけてスラックキーをはじめた」というような記載があったので、影響はあるものとおもわれる。
コタニさんとくらべると、このひとの演奏にははっきりと疾走感がある。コタニさんがその場にとどまって波をみているとすれば、ビーマー氏からは移動していることにともなう開放感というか、そういうフィーリングがききとれる。
とはいえ、コタニさんはコタニさんでときおりクラシックの演奏会のような端正なパッセージをはさんでくるから、ゆるふわとはほど遠い。むしろゆったりとひいているので、ひとつひとつの音がよくきこえる。クロースアップに耐えるトーン。すてきである。これもCDのライナー情報によれば、コタニさんはサニー・チリングワースにスラックキーを習ったことがあるという。
世代でいうと、ケオラ・ビーマーやコタニさんは、スラックキーのレジェンドたちのつぎの世代とおもってよさそうである。大雑把にしらべた感じでは、年代順に、ジョセフ・ケクク(1874~1932)、ソル・ホーピイ、ギャビー・パヒヌイ、レイ・カーネ、レーナード・クワン、サニー・チリングワース、その息子の世代でシリル・パヒヌイ、ケオラ・ビーマー、オジー・コタニ、といった具合になっている。
ギャビー・パヒヌイについては、それこそ『ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブ』ではないが、ライ・クーダーが70年代にプロデュースして似たようなことをしていたらしいので要チェック。ジョセフ・ケククとソル・ホーピイはどちらもラップスティールスライドのひとで、とくにケククはこのスタイルの創始者なのだそうだ。要チェックや。
・・・それにしてもキリがない。これでふところ事情に問題がなかったら、フィジカルをあさりまくっているかもしれないとおもうと、節約中でよかったのかもわからない。以上、経過報告。