マーヴィン・ゲイ『What's Going On』
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実家の荷物を整理しようとしたら、まあCDがでてくる。せっかくなので処分するまえに聴き直している。こういうことをするから片づけが一向にすすまないのだが、じっさい、片づけってそういうものだ。
あらためて聴いてみると、アルバム単位というよりは曲単位のひとなのかなあという印象をうける。いままであまりそんな風に思ったことはなかったのだが。
ミュージシャンもいろいろだ。曲が書けてそれをアルバムとしてひとつのコンセプトに高めることができるひと、曲は書けるがコンセプトやテーマにはそこまで関心のないひと、曲というよりはグルーヴだけで成立しているひと、そもそも録音にあまり興味のないひと、など、など。
ひとりの創作者のなかにプロデューサーとエディターとプロモーターが高次元で同居していることはまれだから、己の資質をわかって、足りないところを補うことができればいうことなしだし、運よく資質を活かしてくれる製作陣に出会えれば、それだけで十分以上に幸運である。
それにしても名盤なのに通しで聴くのがけっこうシンドイ。たとえば、S・ワンダーなど、ひとしきり曲がおわってもずうっとグルーヴしつづけて「もうそろそろ終わってくれてもいいけどな~」と思うことがあるが、本作の楽曲群はそれとはちがって、グルーヴから入って、なんというか詠嘆調に移っていく。曲としてきちっとパッケージングされているものと、曲というよりはむしろ何か静かな叫びのようなものが、シームレスに混在している。
ひょっとしたらこの混沌としたアトモスフィアこそが『What's Going On』の核なのかもしれない。通しで聴くとなおさらそういう感が強まる。
ちょっと曲ごとに分類してみよう、そう思った矢先にアルバムが終わっていた、そのくらいには高密度。だって名盤だもの。