『Hey, Hey』ばなしのつづき。
むかしどこかで見たジャケット写真から、ずっとビッグ・ビルは左足にギターを乗せるスタイルかとおもっていたのだけれど、映像を見たらふつうに右足だった。写真用のポーズだったのだろうか。
いくつかの音源で鳴っている高い打撃音は、タップシューズだとおもうが、ちょっとはっきりしない。タップシューズだとしたら、テンポがはやいので、つま先とかかとで交互に踏んでいるとおもう。
ビッグ・ビルの親指は、複弦をひいているというだけでなく、スラップにもなっているようなかんじである。手の角度をかえたりしてみたものの、うまく再現できない。
すくなくとも、ベースラインにかんして、テーマリフの4拍めに右手でチョップをいれているバージョンがある。サン・ハウスがたまにいれるような動きを、もっとさりげなくおこなっている。
You Tubeで演奏解説をしていたひと―しゃべりかたからしてイギリス人とおもわれる―によると、ビッグビル曰く「音楽をするのは馬に乗るようなもので、ステディなリズムのうえで、まえのほうに乗るか、うしろのほうに乗るか」だそうである。すくなくとも、この曲のビッグ・ビルのボーカルは、ギターに対して後ノリになっている。
だから、といっていいとおもうが、コピーするのはかなりむずかしい。ひとりでふたつのノリをだしているからである。
ギターはオンタイムで、トレインソングというか、すくなくともファンクのノリではない。2と4ののびちぢみよりは4-1のつながりを強調してドライブ感をだしている。チョップをアフタービートではなく4拍めだけにいれているのは、そういうことだとおもう。なんとなく馬に鞭をくれるようなイメージだが、合っているか知らない。なんせ、本人がわざわざ意識しているとはおもえないので、自然にそうなっているものとおもう。
これがギターのほうものびちぢみしてくれれば、ボーカルもそれに合わせやすいのだが、別々なんだよな。やはりひとのスタイルをトレースするのはむつかしい。
総じて、2音同時のベースラインだけでなく、スラップ音をステディに鳴らすことと、2-4ではなく4-1のつながりを意識するというのが、この曲におけるビッグ・ビルの親指のキモではないかとおもう。もっといえば1は最初だけで、あとは5-6-7-8とつづいていく感覚である。
あとは、モノトニックといいつつ、じつはちゃんと内声をうごかしている点も、注意が必要かとおもう。手におえないので翻案では省略した。むつかしすぎるyo!
このまえ読んだ『カントリーブルース』によると、ギターをはじめたのはおそかったようだがーもともとはフィドルを弾いていたそうであるー、ときにはかなりテクニカルなこともしている。器用なひとなのはまちがいないとおもう。
ウェス・モンゴメリーもそうだけれど、大人になってからギターをはじめても、うまいひとはうまい。年齢など関係ないのである。
とくにブルースマンの場合、録音環境もよくないし、よくもわるくも兼業のことがおおいので、録音するときにベストな状態でないことのほうがはるかにおおい。したがって、数曲きいて技量を判断しようというのは早計だとおもう。
ビッグ・ビルの場合、うえの動画ではふつうにミスタッチしているし、後半はスローダウンしている。録っているのもピート・シーガーのようで、レコーディングよりはプライベートな記録にちかい。レコードになっているものでも、フォークウェイズの版はラフで、キレキレの状態ではないとおもう。
その点、ヨーロッパのライブは仕上げてきている。ほかの曲もきいてみたが、とくにボーカルのコントロールがナイス。速いとか流麗とか複雑とか、そういうことではない。もっと速いひともいるし、もっとなめらかなひともいるし、もっとテクニカルなひともいるとおもう。そういうことではないとおもう。
ともかく、この曲の親指にかんして、上述の3つをおさえれば、ワイルドにドライブしつつも洒脱なベースラインをつくれるのではないかとおもったので、ここにのこしておく。とはいえ「hey, hey」が「ヘえ、ヘえ」にしか聞こえない人間のいうことなので、あてにはならない。
田舎のおづんつぁんの発音をイメージすれば、ひょっとしたらうたえるかもしれん。以上、報告おわり。