ドバラダ飛空船〜ブルースからハワイまで〜

ギターをひいたり真空管アンプをつないだり

音楽を聴こう4 〜シガー・ロス〜

 シガー・ロスをはじめて聴いたのはいつだったろう。たぶんもう20年ちかく前だ。

 

 日常的に聴かなくなって久しいが―「手もとに音源は10枚まで」運動をつづけているのだ―、このあいだ『INNI』の映画をやっていたので観たのである。やはり衝撃なのである。

 

 シガー・ロスの音楽は、誤解を恐れずにいえばアイスランドのへヴィ・メタルだ。様式美をとり去ったそれ、サウンドとロマンだけを受けついだ音は、5月の草原に風がわたって、でも気温は氷点下、そんな感じ。

 

 太古の昔とまではいわないが、遠い昔に置きわすれた何かを思い出させるような音楽。ひらけた空間と、凍るような空気。頬をしびらす風。うつくしくて、すこしかなしい、そんな音。

 

 そういえば7、8年前にビョークがインタビューで「アイスランドには音楽家の尊敬される風土がある」と語っているのを読んだことがある。音楽家はリスペクトに値する存在として確立されているから、マスコミの催促や嘲笑や公的抑圧すなわちパブリック・プレッシャーなしに、社会的承認を得つつ真摯に創作に励むことができる、という話だったと記憶している。

 

 そう考えると、音楽の地域的特質というのは、メロディーやリズムやスケールや曲想にとどまらず、そのほかにいわば音楽的風土とでも呼ぶべきものが存在して、できあがった作品にその土地固有の芳香(セント)を付与しているのではあるまいかと、そんなふうに考えたくなってくる。

 『残響』を勧める。